取引先同士で売掛金と買掛金をそれぞれ持つ場合、相殺処理を行う方法もあります。
請求管理業務においては、スムーズに処理を行うことができ、効率も良くなるなどさまざまなメリットがあります。
しかし、処理の方法を正しくできていないとトラブルに発展するケースもあるので注意が必要です。
今回は、そもそも債権と債務における相殺処理とは何か、その意味について詳しく紹介します。
また、領収書について発行方法なども詳しく解説するので参考にしてみてください。
目次
そもそも売掛金と買掛金とは?
企業間取引においては、掛け払いといった方法が活用されています。
掛け払いとは、簡単に説明すると取引において後払いを利用する方法のことを言います。
大きく分けて掛け払いで発生するのが売掛金と買掛金です。
売掛金は、信用取引において商品を提供する企業となり、代金を後から受け取る側のことを言います。
買掛金はその逆で、商品を提供してもらう企業となり、代金を後払いする側です。
これらのことから、売掛金は資産となり、買掛金は負債に該当します。
売掛金と買掛金については、下記の記事でも詳しく紹介しているので、基礎内容を知りたい方はぜひ参考にしてみてください。
相殺処理とは
信用取引の中には、同じ企業間での取引で売掛金と買掛金をそれぞれ所有しているケースもあります。
この場合、お互いに発生している債権債務を帳消しにできたり、減額したりする処理のことを相殺と言います。
活用することでわざわざ取引先の口座に現金を振り込む必要はなく、処理も効率良く完了させることが可能です。
しかし、これらの処理を行うにあたってある一定の要件もあり、必ず守らなければならないので注意しましょう。
相殺ができる要件とは?
相殺は、大きく分けて3つの要件を満たした場合に処理が可能です。
それでは具体的に下記3つの項目を見ていきましょう。
- 取引を行う両社が互いに債権を持っていること
- 代金の受け取りなど同じ目的を持つ債権であること
- 両社の取引の弁済期を迎えていること
1と2に関しては、目的が同じであることが処理を行うにあたっての条件となります。
そのため、特に難しい問題ではありません。
問題となるのが3の項目の部分であり、特に支払期限がA社とB社で異なるケースでは注意が必要です。
例えばA社の支払期限が1月31日だとし、B社が2月15日だったとしましょう。
この場合、A社側から依頼を持ちかけることはできません。
理由はB社の支払期限が2月15日なので、1月31日までに支払う義務がないからです。
しかし、逆にB社から依頼をかけることは可能なので、この場合はB社が依頼をし、A者からの同意を得られれば処理ができます。
このように、あくまでも要件を満たしている取引において使用できるため、正しい方法で行うことが大切です。
互いの合意の上で相殺処理が可能
相殺処理はお互いの合意があれば可能です。
請求業務での手数料をコストカットできますので、相殺処理にはメリットがあります。
両社が同種類の債権を保有していることが前提条件となります。
同種類の債権とは、お互いに買掛金や売掛金を保有していて差し引きできる状態です。
ただし、条件が合えば一方的な通知だけで相殺処理をすることも可能です。
しかしながら、両社の信頼関係にも影響が出る可能性もありますので、基本的には両社合意の上で進めたいところです。
相殺処理のメリット
相殺処理はそもそも両社にとってどのようなメリットをもたらしてくれるのでしょうか。
ここでは大きく分けて2つのメリットについて紹介するので参考にしてみてください。
取引の効率化ができる
そもそも信用取引は代金を後払いにできるため、効率の良い方法です。
さらに相殺処理を行える場合、両者同額であれば代金の受け渡しがなく取引を行うことが可能になります。
通常の信用取引以上に効率が良くなる方法となるため、処理をスムーズにできるのは魅力的でしょう。
また、取引の効率化が可能になれば、請求管理業務において発生する手数料や印紙代も支払う必要がありません。
コストの削減にも役立つ方法となっているため、積極的に活用できるケースでは行ったほうがいいでしょう。
売掛金を回収するための対策としても使える
売掛金を回収するための対策として、活用できるメリットがあります。
あくまでも両者で売掛金を持っているケースのみとなりますが、相手側がから代金を回収できていないなら相殺して処理することも可能です。
実際に活用すれば回収の手間を省くことが可能になるため、未回収のリスクを避けられるでしょう。
売掛金の未回収は資金繰りが悪化するなど、経営をうまく回せなくなることもあります。
必ず避けたい部分になるため、できる対策は活用しておくことがおすすめです。
相殺処理のデメリット
注意点として知っておきたいポイントは、経理担当者の負担が大きくなることです。
相殺処理を行うケースでは、そのたびに請求書や領収書を発行する必要があります。
通常よりも発行する量も増え、負担が大きくなることは理解しておきましょう。
また、そのほかにも掛け取引の内容をしっかりと確認しなければなりません。
取引額が両者同じなら手間もかかりませんが、一部差し引くなどのケースではミスが発生しないよう注意する必要があります。
相殺処理の仕訳
仕訳に関しては、代表的な例としてあげられるのが大きく分けると2つあります。
ここでは仕訳例なども紹介しながら解説するので参考にしてみてください。
①両社が互いに10万円の商品を受け取り相殺処理を行った
2つの取引の金額が同じケースでは、下記のような仕訳で処理を行うことができます。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 100,000円 | 売掛金 | 100,000円 |
②取引先に10万円の商品を提供して取引先から5万円の商品を購入した
このケースでは相殺できる金額が5万円までとなります。
そして、支払期日までに残りの5万円が振り込まれれば処理が完了です。
通常の取引とは異なり、本来であれば10万円を回収する必要がありましたが、相殺により5万円のみの回収で済むということになります。
通常の仕訳は下記のとおりです。
借方 | 貸方 | ||
売掛金 | 100,000円 | 売上 | 100,000円 |
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 50,000円 | 買掛金 | 50,000円 |
上記を相殺すると下記の仕訳となりますので、参考にしてみてください。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 50,000円 | 売掛金 | 50,000円 |
請求書での相殺が可能か?
両社お互いの合意の上であれば、請求書での相殺が可能となります。
複数回の取引請求書があった場合には、改めて1枚にまとめた請求書を発行します。
その際、一般的な請求書と同じように、請求日、請求する金額、指定振込先の記載と共に、元の請求する金額、相殺した分の金額、相殺した後の金額を判るように記載します。
その他、取引先とのやり取りで記載内容を変えることもできます。
請求書での相殺処理の仕組み
例えば、取引先Aから商品を買掛で自社が100万円取引した。
自社のサービスを取引先Aが買掛で100万円取引したと違いに発注していれば、相殺処理をすることで同額による取引で差し引き0円となります。
お互いの掛取引の債権が消滅したということになります。
また、取引先Aから商品を買掛で自社が80万円取引し、自社のサービスを取引先Aが買掛で100万円取引したとなれば、相殺処理による差し引きで取引先Aに対して20万円の支払い義務があることになります。
請求書相殺の書き方とポイント
請求書には、日付、金額、代金振込先、相殺前の金額、相殺額、相殺後の請求金額を記載しましょう。
相殺前金額100万円、相殺額−80万円、相殺後の請求金額20万円というふうに記載します。
ポイントはお互いの帳簿にどんな相殺処理があったかが明確に残る形にすることです。
やはり取引先によっては書式なども変わりますので、相手方に確認の上で請求書を出すことが大切です。
請求書での相殺を正く理解しよう
相殺処理はどうしても取引先と自社の両社が関わることですので、意思の疎通を図ることや記載内容の統一をして、請求書を見たときにどんな取引があったかを双方が確認できるようにすることが求められます。
同意を得ずに身勝手な取引となってしまうと、両社の信頼関係にもヒビが入りかねません。
旅行な信頼関係を保つためにも、相手方の事情に配慮する姿勢が大事になります。
相殺領収書とは?
相殺処理では、お金の流れを把握するために領収書の発行が行われるのが基本です。
万が一不透明な状態になってしまっては帳簿の内容が合わなくなることもあります。
明確にするために領収書の発行は必要ですが、相殺処理では相殺領収書を求められることがほとんどです。
通常の領収書とは異なり、例えば相殺した金額を差し引いた債権や債務の金額を明確にできます。
しっかりと発行することで、二重払いやミスなども防ぐことが可能になるので管理は必ず行いましょう。
収入印紙は必要か?
ビジネスシーンにおいて金銭の受け取りを行う場合、領収書に必要になってくるのが収入印紙です。
これは印紙税法の課税文書の項目にあたるため、5万円以上のやり取りであれば収入印紙を貼り付けなければなりません。
しかし、事実上金銭でのやり取りを行っていない取引に関しては、課税文書にあたらないので領収書の発行を行えば問題ないのです。
たとえ5万円以上の受け取りであっても貼り付ける必要はないので、収入印紙代は節約することができます。
しかし、注意したいのは、差し引いて余った代金を後日振り込むことです。
例えば10万円のうち5万円を差し引いたケースでは、残りの5万円に印紙税が課せられます。
しっかりと処理を行わないと法律違反になる可能性もあるため注意が必要です。
必ず双方が領収書の発行を行う
領収書の発行は、どちらかの企業が行えばいいのかというとそうではありません。
必ず双方が発行を行うことが重要です。
例えば自社のみの発行となると、債務がなくなったことを証明することができません。
信頼できる取引先であれば基本的には問題ありませんが、万が一二重で請求されるようなことがあれば大問題です。
実際に発行する義務はどちらにもありませんが、万が一のトラブルに備えて証拠として発行することが大切となるので、必ず受け渡しを双方が行いましょう。
相殺領収書の発行・作成方法
領収書の発行には、具体的にどのような記載内容が必要になるのでしょうか。
ここでは具体的に記載しなければならない内容など、作成方法を紹介するので参考にしてみてください。
金額
金額の項目に関しては、相殺額のみの記載で問題ありません。
しかし、両者同じ金額で処理できるのか、一部のみなのかで記載内容も異なります。
両者同じ金額のケースでは、取引相手と同じ金額を記載するだけで完了です。
一部のみのケースでは、領収金額についても発行する必要があります。
別々に作成しなければならないケースもあるので注意しましょう。
日付
日付を記載する場合は、特に決まりはありません。
発行する日付を記載するだけで問題ないでしょう。
しかし、第三者から確認をしやすいようにしたいケースでは、できる限り取引先と連絡を取り合って同じ日付で記載するのがいいでしょう。
但し書き
但し書きとは、取引において事実を証明するためのものとして重要な意味を持っています。
そのため、相殺をしたことを証明できるような文書であることが大切です。
万が一、正しくない方法で行ってしまうと、通常の領収書として処理され、収入印紙が必要になるケースも出てきてしまうのです。
但し書きは最も重要な部分となるため、事実を証明できるようにしっかりと記載しましょう。
請求業務の効率化・負担軽減なら請求代行サービスもあり
請求に関する業務は、何かと手間がかかることが多いのも事実です。
特に中小企業の中でも人手が足りていない場所では、本業に集中できないなど悩むところもあるでしょう。
これらの業務に関する負担をできる限り抑えたいと考えているなら、請求代行サービスの活用も検討しましょう。
それぞれサービス内容は異なりますが、請求書の発行や入金消込、会計連携などの一元管理が可能です。
便利なサービスとなるため、負担が大きいと感じているなら活用について検討してみてください。
特に信用取引において便利と思える機能も多いので、具体的にどのような問題を解決できるのか紹介します。
複雑な請求業務からの開放
請求業務の複雑な作業をすべて任せられるのは大きな利点と言えます。
例えば請求にまつわる管理から与信業務まで、幅広く対応してくれるのは代行サービスのみです。
例えば本来の業務よりも別のことで時間が取られていたというケースでは、本業のみに集中することができます。
業務の効率化につながれば売上アップなども見込めるため、特に時間が取られすぎているケースでは活用してみてください。
未回収のリスクを抑えることが可能
信用取引でよくある問題点としては、売掛金の貸倒れリスクです。
後日受け取るはずだった代金が、支払期日を過ぎても振り込まれないといったトラブルはよく発生します。
万が一支払われないとなると、取引相手に連絡を取り合って催促する業務もしなければなりません。
作業負担だけではなく精神的にも負担が大きくなるので、一番労力を使う部分と言えるでしょう。
しかし、請求代行サービスなら催促業務も任せることが可能です。
未回収が発生した際の不安から開放される方法の一つとなるため、特に信用取引の頻度が多い企業では活用したほうが安心でしょう。
与信審査から与信管理まで対応してくれるケースも
新規取引先が多い企業にとって、一つひとつ経営状況の確認を行うことは大変な作業です。
また、どれだけ調べたとしても本当に安心できる企業かについてはプロでない限りわかりません。
実際に正しい判断ができているか不安に思っている企業も多いでしょう。
しかし、請求代行サービスの中には、与信審査から管理までも対応してくれるところがあります。
不安からの開放はもちろんのこと、結果がわかれば取引もいつも以上にスムーズに行なえます。
こちらも業務効率化につながるので、依頼できるのは大きなメリットと言えるでしょう。
信用取引における請求代行サービスには注意点も...
信用取引では企業間での信頼関係が大切です。
請求代行サービスの活用で注意しなければならないポイントもあるので紹介します。
取引先への説明をする
代行サービスを利用するケースでは、代行会社の名前も使われるため、必ず取引相手に知らせなければなりません。
何も連絡がなく使用してしまうと、取引先としては当然不信感が生まれ、自社の情報が第三者にも知られてしまうのではないかと心配されます。
信頼関係がなくなってしまうと取引を継続できないと断られる可能性もあるため、しっかりとコミュニケーションを取りましょう。
特に長く継続している取引先に関しては、許可を取ることが大切です。
例えば請求業務における負担が大きすぎるから代行サービスを利用したいと説明するのもいいでしょう。
事情をしっかりと伝えれば大きな問題に発展することもないので、注意しながら利用する必要はあります。
コストがかかることも把握しておこう
代行サービスを活用するにあたって、当然ではありますがコストがかかることを把握しておきましょう。
内容によっても発生するコストは変わるため、毎月の請求業務も確認しながらトータルでどのくらいかかかるのか逆算することをおすすめします。
計算や見積もりをせずに利用してしまうと、依頼することでコスト面の負担がのしかかることになります。
適切に活用するためにも、料金の部分でシミュレーションしておくことをおすすめします。
売掛金の貸倒れリスク軽減ならファクタリングを活用する
売掛金の未回収は、請求代行サービスでも対応してくれることもありますが、必ず回収できるとは限りません。
また、第三者が動いていることが取引先にはわかるため、代金を回収するために活用することはリスクがあります。
そこで、利用すると便利なのがファクタリングです。
売掛金の貸倒れリスクの軽減にファクタリングがおすすめの理由は下記の2つがあります。
取引先に知られることがない
売掛保証などのファクタリングは、取引先が倒産してしまった場合に保証してくれるサービスです。
また、請求書などを売却して代金を受け取る買取型も存在します。
つまり、これらの内容は取引先に直接催促を行うわけではありません。
ファクタリング会社が代金を支払ってくれる仕組みなので、取引先に知られることなく回収できるのです。
そのため、取引先との関係は続けたいけど、売掛保証を利用していることは知られたくないといった企業にベストな方法と言えます。
売掛保証なら万が一に備えられる
保証型のサービスなら、例えば倒産はもちろんのこと、1ヶ月以上の支払遅延にも対応しています。
保証対象範囲が広いサービスもあるので、活用することで高い確率で代金を回収することができるでしょう。
信用取引において、万が一に備えたいなら利用がおすすめです。
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まとめ
今回は売掛金と買掛金の相殺処理について詳しく紹介しました。
処理方法としては効率が良く、代金の受け渡しを行う必要もなく取引ができるので便利です。
また、仕訳方法や請求書の発行方法についても紹介しましたので、特にこれから信用取引を開始する企業にとってはおすすめの内容となっています。
そのほかにも請求書の作成の効率化に活用できる代行サービスや、売掛金回収に役立つ売掛保証サービスについても紹介しました。
便利なサービスとなっているため、特に請求業務の負担が大きい場合や、リスクに備えたい企業は活用も視野に入れてみてください。