営業のアウトソーシングは、リソースを柔軟に補充することができたり、営業プロセスの一部を完全に代行してもらえたりするので、企業にとってメリットが大きいサービスです。
また、人件費の削減やノウハウの蓄積など、さまざまな利点が挙げられるでしょう。
当然ですが、営業代行を依頼する場合、サービス提供元と契約書を取り交わす必要があります。
実際に利用を検討している企業の中には、「契約書に関する知識を事前に入れておきたい」、「トラブルが起きないように注意すべきポイントを知りたい」と思われている担当者もいるのではないでしょうか。
この記事では、営業代行の契約書に関する基礎知識やトラブルが起きないように注意すべきポイントについて解説しますので、興味がある方はぜひチェックしてください。
目次
営業代行の契約書について
営業代行を依頼するときに取り交わすのは『業務委託契約書』です。
業務委託契約書とは、企業が自社業務の一部を委託するときに個人や法人と締結する契約書を意味します。
例えば、運送会社が配送サービスの一部を個人に委託するとき、Web制作会社が法人にデザイン制作を依頼するときにも取り交わされる契約です。
今回の営業代行においても営業業務の一部を委託することになるため、業務委託契約となります。
書面には、業務内容や費用、支払い方法や納期などを記載するのが一般的です。
また、顧客情報を扱うときは、秘密保持契約もその中に含まれることが多くなります。
それぞれの代行会社で含まれる項目は異なるため、具体的な記載事項は契約時にご確認ください。
業務委託契約書は大まかにわけて下記の2種類に分類することができます。
- 請負契約
- 委任契約
それぞれの内容について詳しくチェックしていきましょう。
請負契約とは?
請負契約とは、納期日までに完成した仕事に対して対価が支払われる契約のことです。
HP制作の依頼など完成品を受け取る代わりに費用を支払うケースで取り交わされます。
営業代行においては、成果報酬型の場合、商談獲得件数に対して料金が支払われるため、請負契約が締結されるケースが多いです。
大きな特徴は、管理する必要がないという点が挙げられます。
例えば、営業代行委託会社の社員が自社発注の案件で過労になってしまった場合でも発注企業に責任はありません。
また、成果に対して支払われるため、請け負う側は完成させなければ報酬を受け取ることが難しくなります。
委任契約とは?
委任契約とは、業務の遂行を目的に取り交わされる契約のことです。
完成品に対して料金が支払われるのではなく、“業務の遂行”に対して費用が発生することを意味します。
例えば、アポイント獲得件数ではなく、営業活動に費用を支払うのが委任契約です。
そのため、依頼内容通りに業務が遂行されていれば、成果の有無は問われません。
請け負う側は、成果を考えずに行動できる点がメリットです。
これにより、専門分野に特化した業務に専念することができます。
また、業務内容に含まれない仕事は遂行する必要がありません。
そのような指示を受けたときは断ることも可能となります。
営業代行で契約書を取り交わす目的
営業代行で契約書を取り交わす目的は大まかにわけて3つあります。
目的を知ることで重要性を把握することができるため、ぜひ参考にしてください。
証拠を残すため
1つ目の目的は、証拠を残すためです。
実は口約束だけでも委託契約は成立します。
発注者側と請負う側で合意していれば、契約が締結されたことになるのです。
そのため、非信頼性を考慮しない場合、契約は不要になります。
しかし、口頭のみで契約してしまうと証拠として残しておくことが難しいです。
たしかに、現在はメールのみで委託内容を確認して双方間で合意するというケースも珍しくありません。
メールは履歴が残るため、証拠として扱われる可能性もあるでしょう。
また、音声記録をしておけば、証拠として残すことができるかもしれません。
しかし、メールを通して契約がされないときもあります。
また、音声記録を使えないときもあるため、確実な証拠を確保するために双方間で合意したことを書面に残す企業が多いです。
トラブルを避けるため
2つ目の目的は、トラブルを避けるためです。
証拠に残すことと共通する部分になりますが、委託した業務内容に食い違いが発生すると“言った・言わない”のトラブルに発展するケースがあります。
例えば、契約をする前、確実に口頭でターゲット選定も行うと聞いていたのに、締結後にターゲット選定が業務内容に含まれていないなどという食い違いが発生します。
証拠がない場合、言ったことや言わなかったことを証明することができません。
そのため、トラブルに発展するケースがあります。
契約書を交わすことで、証拠が残るため、トラブルになりそうなときに書面で内容を見返すことが可能です。
これにより、トラブルを回避することができるので、大きな目的のひとつといえるでしょう。
契約内容を具体的に検討するため
3つ目の目的は、契約内容を具体的に検討するためです。
口約束でも契約内容を確認することはできますが、細かくチェックすることはできないでしょう。
業務内容の範囲や秘密保持契約、支払い方法など、会話で確認することもできますが、現実的にこれらの取り決めをすべて覚えることは難しいです。
また、業務内容を契約書に書くことで何回も読み返すことができます。
その際に浮上した疑問点などを再確認して内容を双方間で詰めていくことができるので非常に便利です。
口約束の契約は内容が曖昧になることがあります。
それを避ける目的で契約書が取り交わされるのです。
営業代行で契約書を取り交わすまでの流れ
営業代行で契約書を取り交わすとき、どのようなフローが採用されているのか把握しておきたい方も少なくないでしょう。
具体的に営業代行会社と契約する際の一般的な流れを詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
自社に適した営業代行会社を選ぶ
はじめに、自社のニーズに適した営業代行会社を選ぶ必要があります。
営業代行サービスを提供している企業の種類は非常に豊富です。
それぞれの代行会社で特徴や費用、実績が異なります。
例えば、固定報酬型の料金形態を採用しているところもあれば、固定報酬制でサービスを提供している代行会社も少なくありません。
また、IT業界に強みを持つなど特徴が大きく異なります。
そのため、まずは自社に合った営業代行会社を選択する必要があるのです。
ちなみに、下記の記事では、営業代行を選ぶ際に見るべきポイントを詳しく解説しています。
選び方がわからないという方は、ぜひ参考にしてください。
事前打ち合わせの実施
次は、事前打ち合わせの実施です。
営業代行会社を選定したあと、ホームページなどから問い合わせをしましょう。
その後に、日程を決めて打ち合わせを行います。
打ち合わせでは、戦略やエリア、業種などのヒアリングを受けるため、適切に回答できるようにしておきましょう。
また、代行開始時期などもこのときに決めるため、打ち合わせをする前に社内で具体的なスケジュールを決めておく必要があります。
資料の提出及び承認
適切な顧客情報などの資料を提出し、変更の必要がある場合はそれに対して承認をします。
代行会社によっても異なりますが、アプローチリストや必要資料を提出するところも少なくありません。
そのような代行会社に依頼する場合、内容を確認して変更後に承認をする必要があります。
どちらが契約書を作成するのか決める
次に、契約書の作成をどちらが行うのか決めます。
基本的には、営業代行会社が契約書を作成してくれるケースが多いです。
また、契約書の案を提示してくれるところもあります。
そのため、依頼主が自ら作成しなければならないことは少ないでしょう。
担当者は契約書の内容を確認します。
打ち合わせのときに話し合った内容と相違点がないかチェックしてください。
契約書の内容を調整する
契約書を確認したら、内容を調整します。
営業代行会社として知名度が高く、導入実績が豊富である企業でもしっかりと契約書は確認するようにしてください。
また、安易に締結するのは避けるようにしましょう。
契約書は万が一トラブルが発生したときに、裁判で重要となる書類です。
そのため、簡単に目を通すだけでは不十分になります。
契約書を調整する前に、次の点を確認しておくのがおすすめです。
- 一方的に不利な内容になっている
- 事前打ち合わせで合意した内容が契約書に組み込まれているかどうか
もし、社内に法務担当部署があるのなら、チェックしてもらうのが好ましいでしょう。
法務担当部署がない企業は、顧問弁護士などにリーガルチェックを依頼するようにしてください。
内容を確認したあとに、双方間で内容の調整を行います。
リーガルチェック内容をもとに変更を依頼し、代行会社に契約書を再提出してもらいましょう。
契約を締結する
最後に、契約を締結します。
調整後、契約内容に納得することができたら、署名や捺印をして契約を締結するのが一般的です。
しかし、現在はインターネットが普及しているため、電子契約で取り交わされることが多くなります。
印刷や返送、保管コストを抑えられるのでおすすめです。
また、電子契約書は収入印紙を貼り付ける必要がないため、その点で大きなメリットがあります。
コストをできるだけ抑えたいという方は電子契約書で締結するようにしましょう。
トラブルが起きないように注意する7つのポイント
契約書はトラブル発生時にそれを解決するために締結するのが一般的です。
しかし、できる限りトラブルに巻き込まれたくないと思われている企業が多いのではないでしょうか。
契約書を取り交わす際、トラブルが起きないようにするためのポイントを7つご紹介しますので、興味のある方はぜひチェックしてください。
①業務内容・範囲を曖昧にしない
1つ目のポイントは、業務内容やその範囲を曖昧にしないことです。
一般的な営業代行の業務範囲として下記が挙げられます。
- 戦略の立案
- マニュアルの作成
- リストの作成
- 電話による営業
- メールによる営業
- 訪問による営業など
- レポートの作成
このように、業務内容は多岐にわたるため、細かく内容を決めて範囲を具体化しておくことが非常に重要です。
例えば、業務内容や範囲がインサイドセールス代行と記載されている場合、どこまでの業務を代行してくれるのかわかりません。
実際に下記のような疑問が残るのではないでしょうか。
- リストは作成してくれるのか
- アプローチ方法は電話orメールなのか
- 既存顧客の育成も含まれるのか
- レポートは提出してくれるのか
もし、疑問を残したまま締結すると想定していた業務内容や範囲が異なることもあります。
そのため、曖昧さや疑問を完全になくした状態で締結することがトラブルを抑えるためのポイントです。
②契約の解除条件を明確にする
2つ目のポイントは、契約解除の条件を明確にすることです。
企業の中には、一時的に営業代行を利用したいというところも少なくないでしょう。
例えば、繁忙期はリソースに余裕がなくなるので、補充するために営業代行を利用したいと考える担当者も多いです。
閑散期になると契約解除を要請しなければならないため、解除条件を確認しておくことは非常に重要といえます。
もし、確認しておかないと拒否されたり、解約金が発生したりするケースもあるでしょう。
そのため、年契約なのかそれとも1ヶ月単位で解約できるのか確認しておくのがおすすめです。
そのほかにも違反行為について明記してそれが発覚したとき契約解除できるようにしておく必要があります。
例えば、公序良俗違反などが考えられるでしょう。
解約条件に違反行為を含めない場合、企業は大きなリスクを抱えることになるため、必ず含めるようにしてください。
また、損害賠償に関する内容も明記して一定の事由で解約したときは賠償金が発生しないことを定めておくことも重要です。
③報酬は内訳も記載する
3つ目のポイントは、報酬の内訳を記載することです。
報酬だけを記載する場合、その報酬額がどのように算出されたのかわかりません。
『アポイント獲得1件につき15,000円』というように、内訳を細かく記載します。
報酬算定方法が明確でない場合、トラブルに発展するケースがあるので十分に注意しましょう。
また、報酬の時期や支払い方法を明記します。
着手金の有無や分割払い、月末締め翌月15日払いなど、それぞれの営業代行会社で異なるため、細かくチェックしておくことが重要です。
➃料金形態を明確にする
4つ目のポイントは、料金形態を明確にすることです。
営業代行会社の一般的な料金形態は、『固定報酬』、『成果報酬』、『複合報酬』の3種類になります。
固定報酬や成果報酬は、区別がつきやすく料金もわかりやすいです。
しかし、固定報酬と成果報酬両方を採用した複合報酬は非常にわかりづらくなります。
正確に料金形態を理解していない場合、「固定報酬だと思っていたのに、アポイント獲得後に成果報酬も請求された」、「成功報酬の代行会社だと思っていたのに、月々の固定費がかかっている」というトラブルに発展する可能性もあるでしょう。
複合報酬を成果報酬や固定報酬と勘違いしてしまうことは多いので、料金形態を明確にしておくこともトラブルを避けるポイントのひとつです。
⑤業務の進め方も確認する
5つ目のポイントは、業務の進め方を確認することです。
営業代行会社に業務を委託する場合、業務委託契約書を締結することになります。
業務委託契約書は成果物に対して支払われる料金などを明記する契約書です。
労働契約とは異なり、依頼主側に指揮権などは与えられないので、請負う側の裁量で業務が進められます。
そのため、どのように業務が遂行されるのか明確にしてもらう必要があります。
もし、業務の流れが適切ではない場合、顧客とトラブルに発展する可能性もあるでしょう。
このようなリスクをなくすためにも業務の進捗や進め方を報告してもらうように契約書に記載するのがおすすめです。
⑥経費の負担を明確にする
6つ目のポイントは、経費の負担を明確にすることです。
営業活動をするときは、顧客のもとまで足を運ぶ機会もあるため、交通費がかかります。
また、電話を使用してアポイントを獲得する営業代行も存在するため、その場合は通信費が必要です。
そのため、経費を負担する側がどちらなのか明確に決めなければなりません。
経費が報酬額に含まれるのが、別途負担しなければならないのかを契約書で確認することで、トラブルの発生を抑えることができるでしょう。
⑦テンプレートは使用しないのが好ましい
7つ目のポイントは、テンプレートによって作成された業務委託契約書なのかどうか確認することです。
現在、インターネット上には業務委託契約書のテンプレートが公開されており、無料でダウンロードできるものもあります。
そのため、専門家でなくても簡単に作成することが可能です。
しかし、ダウンロードできる雛形は、委任者に不利なケースもあるため、使用しないのが好ましいでしょう。
トラブルになることもあるため、テンプレートが使われている場合は専門家によるチェックが必要です。
契約書はリーガルチェックを受けるのがおすすめ!具体的なメリットとは?
契約書は新聞や一般的な書籍とは異なり、法律用語が多用されます。
そのため、契約書を取り交わすときは、リーガルチェックを受けることでトラブルを大幅に防ぐことが可能です。
営業代行を依頼する際に取り交わす契約書をリーガルチェックに回すメリットを簡単にご紹介します。
不利な言い回しを指摘してくれる
1つ目のメリットは、不利な言い回しを指摘してくれる点です。
契約書に使用されている言葉は人によって解釈が変わることもあります。
解釈の仕方によっては、企業側が不利になる可能性も珍しくありません。
リーガルチェックを利用すれば、不利な言い回しを見つけてもらうことができます。
そのため、トラブルになるリスクを大幅に減らすことができるでしょう。
トラブルの発生リスクが低くなる
2つ目のメリットは、トラブルの発生リスクを大幅に抑えることができる点です。
専門家は知識が豊富で一般人では想定できないリスクを見つけることができます。
そのため、リーガルチェックを受けることは非常に重要です。
実際に利用すれば、予期せぬトラブルを未然に防ぎ、双方間で健全な取引を実現できます。
契約書の有効性が高まる
3つ目のメリットは、契約書の有効性が高まるという点です。
専門家のチェックによって不備や見落とし、表現の洗い直しをすることができます。
これにより、有効性の向上を期待することができるでしょう。
また、有効性の高い契約書は、守ろうという意識が双方で働くため、その点もメリットといえます。
まとめ
今回は、営業代行の契約書に関する基本概要やトラブルが起きないように注意すべきポイントについて解説しました。
契約は口約束で締結することもできますが、証拠を残すことができないので、好ましい方法ではありません。
営業代行会社と契約するときは、必ず業務委託契約書を取り交わし、トラブル発生時に備えることが求められます。
また、契約書はリーガルチェックを受けるなど、自社が不利にならないように注意することが重要です。