

介護施設が地震に備えるには、発生時の対応手順を決め、自施設のマニュアルとして職員間で共有しておくことが重要です。
地震発生時は、建物の損傷や停電、通信障害、職員不足などが重なり、判断が遅れるおそれがあります。また、すぐに施設外へ避難することが安全とは限りません。
建物や避難経路、周辺の被害、利用者の状態を確認し、状況に応じた対応を取れるよう準備しておきましょう。
- 地震発生時の対応フロー
- 夜間・少人数勤務中の対応
- 地震対応マニュアルが必要な理由
- マニュアルを作成する5つのステップ
本記事では、介護施設で地震が起きたときの対応手順と、現場で活用できる地震対応マニュアルの作り方を解説します。
\BCP策定について、無料でご相談承っています/
【発生時】介護施設で地震が起きたら?地震時の対応をフローチャートで確認
介護施設で地震が発生したら、すべての対応を一度に進めるのではなく人命に関わるものから優先します。
基本的な対応の流れは、次のとおりです。

建物内の安全が確認できれば施設内で待機し、倒壊や火災、津波などの危険がある場合は、利用者の状態に応じて施設外や上階へ避難します。
その後は利用者の心身の状態を確認し、家族や関係機関へ状況を伝えてください。
ただし、実際の災害では被害状況によって対応の順番が前後します。
施設で作成した地震対応マニュアルや自治体からの情報を踏まえ、現場の状況に応じて判断しましょう。
揺れている間は利用者と職員の安全を確保する
地震の揺れを感じたら、まず職員自身と利用者の安全を確保します。
揺れている最中に無理な移動を始めると、転倒や落下物による負傷につながるためです。
- クッションや布団などで利用者の頭を守る
- 窓ガラスや棚、テレビなど倒れやすい物から離れる
- ベッドや車いすのキャスターを固定する
- 歩行中の利用者には、その場で姿勢を低くしてもらう
- エレベーターを使用しない
- 職員も落下物から頭を守り、安全な姿勢を取る
自力で姿勢を変えることが難しい利用者も、火災や家具の転倒などが迫っている場合を除き、揺れている最中の無理な移動は避けます。
職員が負傷するとその後の避難支援が難しくなるため、利用者を介助する際も自身の安全を確保してください。
参考:内閣府「令和8年版 防災白書|地震が起こったら」
利用者・職員の安否と負傷の有無を確認する
揺れが収まったら、命に関わる負傷や緊急性の高い利用者から安否を確認します。
- 意識と呼吸の状態
- 転倒や落下物による出血・骨折などの負傷
- 医療機器の停止や異常
- 強い動揺、混乱、パニック
- その場から自力で移動できるか
- 職員の負傷と対応可能な人数
確認した内容は、利用者名、発見場所、状態、実施した処置とともに記録してください。
口頭だけで伝えると情報が錯綜しやすいため、安否確認表やホワイトボードなどへ集約すると、状況を把握しやすくなります。
重傷者がいる場合は、施設の救急対応手順に従って応急手当を行い、必要に応じて119番へ通報します。
医薬品の使用や服薬は職員が独断で判断せず、医師や看護職の指示、あらかじめ定めた服薬手順に沿って対応します。
建物・設備・避難経路の安全を確認する
利用者と職員の安否を確認したら、施設内にとどまれる状態かを判断するため建物や設備を点検します。
- 壁や柱、天井のひび割れや崩落
- 窓ガラスや照明器具の破損
- 家具、棚、機器の転倒
- 火災、煙、焦げたにおい
- ガス漏れや薬品の流出
- 停電、断水、通信障害
- 廊下、階段、出入口の通行可否
- エレベーター内の閉じ込め
- 非常用電源や消防設備の作動状況
点検する職員は単独行動を避け、危険な場所へ無理に立ち入らないようにします。
建物の傾きや大きな亀裂、火災、ガス漏れなどが見つかった場合は、利用者の避難を優先し、消防や自治体などへ連絡してください。
普段使用している避難経路が、地震後も通れるとは限りません。
家具の転倒や天井材の落下によって塞がれている場合に備え、複数の経路を確認します。
施設内待機か施設外避難かを判断する
地震が起きても、直ちに全員を施設外へ移動させるとは限りません。
施設内待機か施設外避難かは、次の情報を総合して判断します。
- 建物内にとどまる危険性
- 火災やガス漏れの有無
- 津波や土砂災害の危険
- 避難経路と避難先の安全性
- 自治体や消防からの避難情報
- 利用者を安全に移動できる職員数
- 医療機器や電源を確保できる場所
建物の安全が保たれ、周辺に火災や津波などの危険がなければ、施設内待機のほうが利用者の負担を抑えられる場合があります。
倒壊や火災の危険があるときは施設外へ、津波が迫っているときは上階や高台など、事前に定めた安全な場所へ避難してください。
利用者の状態に応じて避難誘導を行う
避難すると決めたら、利用者の身体状況や必要な介助に合わせて誘導します。
自力で移動できる人と介助が必要な人を整理し、優先順位や避難方法を判断してください。
避難の際には、利用者をおおむね次のように分けます。
- 声かけや見守りがあれば歩ける人
- 杖や歩行器を使用する人
- 車いすでの移動が必要な人
- 寝たきりで複数人の介助が必要な人
- 酸素療法などの医療的ケアが必要な人
- 認知症などにより状況の理解が難しい人
避難支援は、地震対応マニュアルで定めた担当者と移動方法に沿って進めます。
誘導時は、名札や利用者名簿などを使って避難前後の人数を確認します。
医薬品、医療機器、連絡先、必要最低限の介護用品も、持ち出せる範囲で準備してください。
避難後は利用者の心身の状態を確認する
避難先へ移動できても、対応は終わりではありません。
環境の変化や強い不安によって、利用者の体調が悪化することがあります。
- 痛みや出血など、避難前には分からなかった負傷
- 呼吸状態や血圧、体温などの変化
- 持病の悪化や医療機器の不具合
- 服薬の中断や医薬品の不足
- 水分・食事・排せつの状況
- 不眠、不安、興奮、混乱
- 認知症の症状や行動の変化
状況が分からず不安を感じている利用者には、現在地やこれからの対応を落ち着いて説明します。
慣れた職員が声をかけたり、普段使用している介護用品を用意したりすることも、心理的な負担の軽減につながります。
体調悪化や医療的ケアの継続が難しい場合は、協力医療機関や災害時の連携先に相談してください。
家族・行政・医療機関へ状況を連絡する
利用者の安全を確保し施設内の状況を整理したら、家族や関係機関へ連絡します。
発災直後は電話やインターネットがつながりにくくなることも想定し、複数の連絡手段を使えるようにしておくことが重要です。
- 利用者と職員の安否
- 負傷者の有無と対応状況
- 建物や設備の被害
- 施設内待機か施設外避難か
- 避難した場合の場所
- 不足している人員や物資
- 医療・救助などの支援が必要か
家族への連絡では、利用者の状態と避難場所を優先して伝えます。
個別の問い合わせが集中すると現場対応に支障が出るため、一斉連絡システムや災害用伝言サービスなども活用しましょう。
自治体への報告方法は、施設・事業所の種類や地域によって異なります。
国が災害情報を登録した場合には、介護サービス情報公表システムの「災害時情報共有機能」を通じて被害状況を報告する運用もあります。
第一報では、すべての情報がそろうのを待たず、把握できている状況を速やかに伝えることが重要です。
家族や関係機関の連絡先、報告項目は、地震対応マニュアルにまとめておく必要があります。
参考:埼玉県「介護施設・事業所等における災害時情報共有システムについて」
\BCP策定・見直しを無料相談!/
夜間・少人数勤務中に地震が起きた場合の対応

夜間に地震が発生した場合も、基本的な対応の流れは日中と変わりません。
ただし、勤務する職員が少なく、多くの利用者が就寝しているため、限られた人数で対応の優先順位を判断する必要があります。
まず当直責任者へ情報を集約し、職員の居場所と対応可能な人数を確認します。
そのうえで、次の順番を目安に行動してください。
- 火災や建物の損傷など、差し迫った危険を確認する
- 医療依存度や自力避難の可否を踏まえて安否を確認する
- 居室やフロアごとの確認状況を記録する
- 施設責任者や応援職員へ連絡する
- 必要に応じて消防・自治体・医療機関へ支援を要請する
少人数で対応するときは、一人の職員が救護、建物点検、連絡をすべて抱え込まないことが重要です。
職員が複数いる場合は、利用者の安否確認、危険箇所の確認、情報集約と連絡に役割を分けます。
また、夜間は停電によって館内が暗くなり、エレベーターが停止する可能性もあります。
無理に利用者を移動させず、火災や倒壊などの危険度が高い場所から対応してください。
応援職員が到着するまでの間は、通常の介護業務をすべて続けようとせず、命を守るために必要なケアを優先します。
介護施設に地震対応マニュアルが必要な理由

介護施設では、自力での移動が難しい人や医療的ケアを必要とする人など、利用者によって必要な支援が異なります。
地震発生時にその場で対応を考えていると、判断の遅れや職員ごとの対応のばらつきにつながりかねません。
地震対応マニュアルを整備する主な目的は、次の3つです。
- 地震発生後に優先する行動を職員間で統一する
- 担当者が不在でも、別の職員が役割を引き継げるようにする
- 利用者ごとに必要な避難支援やケアを明確にする
特に夜間や休日は勤務する職員が限られるため、誰が指揮を執り、どの利用者から支援するかを事前に共有しておく必要があります。
作成後も職員への周知や訓練を行い、見つかった課題をマニュアルへ反映させていきます。
参考:厚生労働省「非常災害対策の基準省令における位置づけ」
地震対策に限らず、BCP全体の考え方や策定手順を確認したい方は、BCP対策の基本を解説した記事もご覧ください。
介護施設の地震対応マニュアルの作り方【5ステップ】

一般的なひな形をそのまま使用するだけでは、実際の地震時に活用できるマニュアルにはなりません。
施設の立地や建物、職員体制、利用者の状態を反映し、現場で実行できる内容へ落とし込むことが重要です。
ここからは、地震対応マニュアルの作り方を5つのステップで解説します。
1.施設の被害想定と現在の備えを確認する
最初に、施設で起こり得る被害と現在の防災対策を確認します。
ハザードマップや自治体の地域防災計画などを使い、次の項目を調べてください。
- 想定される震度や地盤の特徴
- 津波、土砂災害、液状化の危険
- 建物の耐震性や老朽化の状況
- 家具、設備、照明器具などの転倒・落下リスク
- 停電や断水が介護業務へ与える影響
- 周辺道路や避難場所の状況
ハザードマップポータルサイトでは、住所から災害リスクや避難場所を確認できます。
ただし、掲載情報の精度や範囲は地域によって異なるため、自治体が公開する最新のハザードマップも併せて確認しましょう。
施設内では、居室、食堂、浴室、厨房などを実際に歩き、地震時に危険となる場所を洗い出します。
被害を想定したうえで、家具の固定やガラスの飛散防止など、事前に改善できる箇所も整理してください。
参考:国土交通省「ハザードマップポータルサイトを活用して災害に備えよう」
2.利用者ごとの避難支援方法を整理する
次に、利用者一人ひとりの状態に合わせて必要な避難支援を整理します。
確認する項目は次のとおりです。
- 自力歩行の可否と使用する補助具
- 車いすやストレッチャーの必要性
- 避難に必要な職員数
- 認知症や聴覚・視覚障害などへの配慮
- 酸素療法などの医療的ケア
- 常用薬と服薬上の注意
- 食事、排せつ、コミュニケーションの支援
確認した情報は利用者別の一覧にまとめ、避難方法や必要な持ち出し品を記載します。
利用者の状態は変化するため、入退所や介護度の変更、医療的ケアの開始などに合わせて更新が必要です。
個人情報を含む資料は、災害時に取り出せる場所へ保管しつつ、平常時の管理方法にも配慮してください。
3.職員の役割・指揮系統・連絡体制を決める
地震発生時に誰の指示で動くのかを明確にします。
施設長や管理者が不在の場合も想定し、指揮を引き継ぐ順番まで決めておきましょう。
主な役割は次のとおりです。
| 役割 | 担当する内容 |
| 指揮・情報集約 | 被害状況の把握、対応方針の決定 |
| 安否確認・救護 | 利用者と職員の確認、応急手当 |
| 建物・設備確認 | 火災、損傷、避難経路の確認 |
| 避難誘導 | 利用者の誘導、避難先での人数確認 |
| 連絡・報告 | 家族、自治体、消防、医療機関への連絡 |
日中と夜間では職員数が異なるため、それぞれの勤務体制で役割分担を作成します。
担当職員が不在または負傷した場合に備え、代替要員も設定してください。
緊急連絡網には、施設長、応援職員、自治体、消防、警察、協力医療機関、設備会社などを記載します。
電話が使えない状況を想定し、メールや災害用伝言サービスといった代替手段も決めておくことが重要です。
4.避難経路・ライフライン・備蓄への対応を決める
施設内待機と施設外避難の両方を想定し、避難場所と移動方法を決めます。
避難経路は一つに限定せず、倒壊や落下物によって通れなくなった場合の代替経路も設定してください。
車いすやストレッチャーを使用する利用者が通行できるか、段差や扉の幅も実際に確認します。
併せて、停電・断水・ガス停止が続いた場合に必要な物資を整理しましょう。
介護施設では、一般的な非常食や飲料水に加えて、次のような備蓄が必要です。
- 利用者の状態に合った食事と飲料水
- 常用薬、応急医薬品、衛生用品
- 紙おむつ、簡易トイレ、清拭用品
- 医療機器や通信機器の予備電源
- 懐中電灯、毛布、携帯ラジオ
- 卓上コンロなどの代替調理手段
備蓄品は、建物の損傷や浸水で取り出せなくなる可能性を考え、複数の安全な場所へ分散して保管します。
非常用電源を設置している施設では、どの設備へ何時間給電できるか、燃料をどの程度確保しているかも確認してください。
参考:大阪府「社会福祉施設等における地震防災対策マニュアル作成について(入所施設版)」
5.対応手順をフローチャートにして訓練・見直しにつなげる
最後に、地震発生後の対応を時系列に並べフローチャートへまとめます。
文章だけのマニュアルでは、緊急時に必要な行動を探すまでに時間がかかります。
「揺れている間」「揺れが収まった直後」「避難判断後」などの段階に分け、誰が何をするのかを一目で確認できる形にしてください。
作成したフローチャートは、職員がすぐ手に取れる場所へ配置します。
夜勤者や新しく入職した職員を含め、全員が内容を理解していることも重要です。
訓練後は、次の点を振り返ります。
- 安否確認や情報伝達に時間がかからなかったか
- 少ない職員でも役割を実行できたか
- 避難経路を安全に通れたか
- 利用者ごとの避難方法に無理がなかったか
- 必要な物資や機器をすぐに取り出せたか
訓練で実行できなかった手順や新たに見つかった危険箇所は、地震対応マニュアルへ反映します。
作成して保管するだけでなく、訓練と見直しを繰り返すことで実際に使える内容へ改善していきましょう。
\BCP策定・見直しを無料相談!/
訓練の種類や実施手順、振り返りの方法については、BCP訓練の進め方を解説した記事も参考にしてください。
介護施設の地震時の対応に関するよくある質問

介護施設の地震対応では、避難の判断や非常用電源の必要性など、事前に確認しておきたい点があります。
地震対応マニュアルを作成・見直す際に生じやすい疑問へ回答します。
介護施設の地震対応マニュアルに決まった様式はありますか?
全国一律の決まった様式はありません。自治体などが公開しているひな形を参考にできますが、施設の立地や建物、職員体制、利用者の状態に合わせた調整が必要です。作成時は、指定権者や自治体が示す基準も確認してください。
利用者をすぐに施設外へ避難させるべきですか?
必ずしも、すぐに施設外へ避難する必要はありません。屋外にも落下物や道路の損傷などの危険があるため、建物内と屋外のどちらが安全かを判断します。
介護施設に非常用電源の設置は義務付けられていますか?
すべての介護施設に、一律で非常用自家発電設備の設置が義務付けられているわけではありません。ただし、施設の用途や規模、設置する消防用設備によっては、消防法令に基づく非常電源が必要になります。義務の有無は施設ごとに異なるため、所轄の消防署や自治体へ確認してください。
参考:総務省消防庁「自家発電設備の基準」、厚生労働省「介護施設等の整備について」
地震対応マニュアルとBCPの違いは何ですか?
地震対応マニュアルは、利用者の安全確保や避難、安否確認など、地震発生時の具体的な行動をまとめたものです。一方、BCP(事業継続計画)は、災害が発生しても優先度の高い介護サービスを継続し、停止した業務を早期に再開するための計画を指します。目的は異なりますが、内容には重なる部分があります。介護サービス事業者には、BCPの策定、研修、訓練などが義務付けられています。
参考:厚生労働省「介護施設・事業所におけるBCP作成支援に関する研修資料・動画」
介護事業所におけるBCPの義務化や未策定減算、研修・訓練の要件は、介護事業所のBCP義務化と見直しのポイントで詳しく解説しています。
地震対応マニュアルは避難訓練でどのように確認しますか?
訓練では、マニュアルに沿って安否確認、情報伝達、避難誘導を実行できるか確認します。終了後は対応時間や役割分担、避難経路の課題を記録し、マニュアルへ反映してください。夜間や少人数勤務を想定した訓練も必要です。
介護施設の地震対応マニュアル・BCPは無料でご相談ください
介護施設の地震対策では、発生直後の安全確保だけでなく、被災後も必要な介護サービスを継続できる体制を整えることが重要です。
「BCPの窓口」では、介護施設の防災対策やBCP策定に関する無料相談を承っています。
地震対応マニュアルの作成・見直しや、BCPとの整合性に不安がある方も、お気軽にご相談ください。
\BCP策定・見直しを無料相談!/
ミツモルでは、医療・介護事業者のBCP策定を支援しています。
























