
当記事では介護施設で地震などの災害に備えるための防災対策やBCP策定について解説します。
災害に対する施策として意味を混同しやすく間違いやすい防災対策とBCP策定との違いについても詳しく解説します。
日本は、マグニチュード5以上の大地震が発生しやすく、地震大国と呼ばれるほどの国です。
地震は身近なものであり、いつ起きてもおかしくありません。そのため、地震が起きた時のために、さまざまな準備をしておく必要があります。
特に高齢者が多く利用する介護施設は、地震による被害が大きくなりやすいです。
そのため、介護事業従事者は、他の事業以上に入念な地震対策をしなければなりません。
ぜひ、当記事を参考に、介護施設で地震などの災害が発生しても万全に対応できる体制作りに役立ててください。
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防災対策とBCP策定の違い
防災対策とBCP策定はどちらも災害に備えるための施策ですが、内容はそれぞれ異なります。
非常に混同しがちで間違いやすい内容ですが、目的や対象、対応範囲などが違います。
防災対策とBCP策定の違いを簡単まとめると以下の違いがあります。
ここからは防災対策と、BCP策定についてそれぞれ詳しく解説します。
防災対策とは
防災とは災害や伝染病などによる被害を未然に防ぐために行われる取り組みです。(関連用語として減災もあり、こちらは災害時に発生しうる被害を最小化するための取り組みです)
特に地震や風水害などの自然災害は常に発生しうる災害です。普段から防災意識を高めたり、災害発生時用の備えをするなど、事前にしっかりと対策をすることで災害による被害を最小限に減らすことができます。
防災の目的
防災の目的は災害や伝染病などによる被害を最小限に抑えることです。また、被害にあっても迅速に復旧できるようにすることを目的としています。
- 災害や伝染病などによる被害を最小限に抑える
- 被害にあっても迅速に復旧できるようにする
災害は地震などの自然災害以外に、人為災害もあり、それぞれの災害に対する防災対策をする必要があります。
自然災害の種類
自然災害は大きく6種類あります。
- 地震災害
- 地震、津波、遠地津波、液状化
- 火山災害
- 噴火、溶岩流、火砕流、泥流、降灰、噴煙、噴石、噴気・ガス、その他の火山活動
- 風水害災害
- 洪水、強風、大雨、高潮、台風、竜巻、降雹
- 斜面災害
- 表層崩壊、土石流、斜面崩壊、地すべり、落石・落盤
- 雪氷災害
- 大雪、雪崩、融雪、着雪、吹雪、流氷
- その他の気象災害
- 長雨、干害、日照不足、落雷、冷害
人為災害の種類
人為災害は人の活動によって引き起こされる災害で、大きく以下のようなものがあります。
- 都市災害
- 火災、建物倒壊、公害(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、悪臭など)
- 労働災害(産業災害)
- 従業員の事故による負傷や死亡、工事現場や工場や鉱山などの事故活動
- 交通事故
- 車の交通事故、電車の脱線、船・飛行機などの事故
- 管理災害
- 管理の不備、操作ミス、ずさんな計画や設計によって発生する事故
- 環境災害
- 環境破壊によって発生する災害
また、大地震が発生した際に想定される被害の具体例としては以下のようなものが挙げられます。
- 建物や家具の倒壊・破損
- けが人・病人の発生
- 火災
- 津波
- インフラの停止(停電・断水・ガス・電話・ネットが使えない)
- 交通障害(道路等の破損・電車が使えない・帰宅困難者の発生・液状化現象)
大地震が発生した場合、発端は地震という自然災害ですが、対策の取り方次第では、人為災害が重なり、被害が大きくなることにも繋がります。
最悪なケースでは災害の発生によって、事業者であれば事業継続が中長期的に困難になる可能性もあります。
防災対策の具体例
災害発生の際に被害に極力合わないように予防すること、災害が発生しても適切に対処できるように備え、知識を持つことが防災に繋がります。
災害に対する防災対策の具体例としては以下のようなものがあります。
- 建物・施設の耐震化
- 災害発生時の避難経路確保
- 避難訓練の実施
- 非常食・飲料の備蓄
- 火災を防ぐ対策
- 災害時の行動マニュアル化
- 地域自治体との災害時支援協定の締結
- 地域の防災訓練への参加
BCP策定とは
BCPとは、「Business Continuity Plan」の略で「事業継続計画」という意味です。
BCP策定は自然災害・感染症・テロ行為などが発生した時にいかに事業に与える被害を最小限にとどめるか、いかに主要事業を早く復旧させるかといった計画を予め社内で定めておくことです。
BCPの目的
BCP策定は自然災害や感染症の蔓延などの緊急事態時人の命を守ることを最優先した上で、
以下のことを目的としています。
- 事業資産の損害のリスクの低減
- 中核事業を継続、または早期復旧させる
自然災害と言われると地震に目が行きがちですが、BCPの対象は様々なリスクにも及ぶため、
火災・水害・テロ(場所によっては土砂崩れ)など複数のパターンを作成しておくとより良いです。
BCP策定を重要視する理由
BCP策定を重要視する理由は「会社や従業員を守るため」です。
ほかにも以下のような点もあり、BCP策定を重要視されています。
- 会社や従業員を守るため
- 事業中断のリスク低減のため
- 社会的責任を果たすため
- 取引先からの選定条件になってきているため
事業中断のリスク低減のため
事業中断が起こると倒産にも繋がりかねない問題の為、会社だけでなく従業員を守るために事業中断リスクの低減は運営上必須です。
①利益損害 | ②取引先離れ | ③顧客離れ |
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メイン事業の長期中断は 倒産のリスクに繋がります | 事業復旧に時間をかけることは自社 だけでなく取引先にも影響を与え、 社会的信用を失うリスクがあります | 顧客の生活に関わるサービスの提供が 遅れれば、顧客は離れていきます。 一度離れた顧客を取り戻すのは大変です。 |
地震などの震災だけでなく、感染症の蔓延やテロ等も事業を中断するリスクがあるものとして考える必要があります。
①震災 | ②水害 | ③ウィルスの蔓延 | ④テロ行為 |
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社会的責任を果たすのため
最近注目されている、SDGs実現の為にも、BCP策定は必要不可欠になっています。
◇住み続けられるまちづくり
包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、
災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す
全ての国々において、
気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応の能力を強化する
取引先からの選定条件になってきているため
既に介護事業の業界では2024年4月よりBCP策定が義務付けられていますが、義務化されていない他の業界でも大手企業を中心に取引先・融資先の選定条件の中にBCPを追加する動きが加速しています。
①自動車メーカー | ②家電メーカー | ③大手銀行 |
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介護施設の地震に備えた防災マニュアル
続いて介護施設で地震が発生した際の防災マニュアルの内容やポイントについて解説します。
介護施設で大地震が発生した際に、各スタッフが適切な対応・判断が取れるとは限りません。
大地震は昼夜、曜日を問わず発生し、タイミングによっては少ないスタッフ人数で的確で迅速な行動が求められます。
また、介護施設内には自身で自由に体を動かすことができない要介護者も多く、非難をするにも時間がかかりやすい点もあります。
避難経路の確認や備蓄品の確保、アフターケアなどといった災害時への備えが必要です。
ここでは介護施設の地震に備えた防災マニュアルで抑えておきたい4つのポイントについてそれぞれ解説します。
- 避難経路を確保する
- ライフラインや備蓄品の確保
- 避難所への避難
- 入居者のアフターケア
避難経路を確保する
避難経路を確保すべく、扉や非常口、窓はできる限り開放しましょう。
ただし、近隣の火災や建物の損壊がある場合は、外から火や破損物が入ってこないよう注意する必要があります。
ライフラインや備蓄品の確保
地震が起きた際は、食料や救急用医薬品などの調達が難しくなる恐れがあります。また、災害の被害状況によってはライフラインが断たれてしまい、復旧までに時間を要する可能性もあります。
そのような事態のためにも、ライフラインの確保や必需品の備蓄はしておきましょう。
- ライフラインの確保
- 電気…大容量タイプの蓄電池、発電機、受電設備の複数化や二重化など
- ガス…LPガスの導入やガスによる発電や空調設備対応など
- 水…災害時用の上下水道の確保、受水槽の設置、第二水源(地下水・工業用水)の有効活用など
- 備蓄品の確保
- 食料…飲料水、レトルト食品、乾パン、缶詰、粉ミルク、流動食、水で炊けるご飯、インスタント食品、調味料など
- 救急用医薬品…三角巾、ガーゼ、包帯、眼帯、綿棒、絆創膏、ウェットティッシュ、石鹸、はさみ、ピンセット、紙テープ、小型ナイフ、ビニール袋、体温計、衛生用手袋、消毒液、鎮痛剤、目薬など
- その他備品…毛布、女性用品、下着、紙おむつ、タオル、マスク、ポリ袋、筆記具、工具、小型洗浄水装置、生活用水、簡易トイレ、消火器、代替熱源、蓄電機、電池、ラジオ、小型テレビ、メガホン、車椅子、懐中電灯、マッチ、ロウソク、担架、ヘルメットなど
備蓄品に関してはなるべく早く取り出せるよう、できる限り玄関に近い所に保管しましょう。
特に食料や救急用医薬品はすぐに必要になる可能性が高いため、取り出しやすい位置に保管しておくと良いです。
また、利用者の送迎車にもある程度の備品を保管しておきましょう。
非常時のライフラインの確保に最適な蓄電池選びはこちらの記事をご覧ください。
避難所への避難
避難情報の警戒レベルが3になったら、入居者の方には避難場所へ避難してもらいます。
避難場所は指定緊急避難所や福祉避難所、安全な場所にある知人宅などです。
特に福祉避難所は、高齢者や障がいのある方に特別な配慮をしてくれるため、必ず最寄りの福祉避難所を把握しておきましょう。
福祉避難所の場所は、各自治体のホームページで確認できます。
入居者のアフターケア
地震がある程度落ち着いたら、入居者のアフターケアをおこないます。高齢者は心身共に大きなダメージを受けやすいです。
メンタル面では、地震の被害によるショックや、生活の変化によるストレスからダメージを受けます。悪化すると、不眠やうつ状態になってしまうこともあります。
対処方法としては、入居者がひとりにならないようにしたり、他社とのコミュニケーションの機会を増やしたりすることが有効です。
身体面では、地震によるケガや、心の不調が身体に及ぶこともあります。
たとえば、食欲が出なかったり、疲れがとれなかったりなどです。
このような場合は、備品の薬を服用させたり、救護所に相談してアドバイスを受けたりしましょう。
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BCP策定の流れ
ここからはBCP策定の流れについて、順を追って解説します。
防災対策とは異なり、BCPは「災害が発生しても事業継続ができること」にポイントを置いているので、事業継続ができるかの点も抑えたBCP策定を行う必要があります。
また、複数の介護施設を持っている場合は、それぞれ最適なBCPが異なるため、各施設ごとにBCP策定を作ることが必要です。
- リスクの把握と評価
- 事業継続の目標設定
- 必要な資源と体制の準備
- 訓練とシミュレーション
各手順について解説します。
リスクの把握と評価
BCP策定にあたり、必要なことはリスクの把握と評価です。
現在の環境でどのようなリスクがあるのか、どの程度リスクが高いことなのかといった現状把握を行うことが必要です。
- 地震をはじめとする自然災害の発生
- インフルエンザや新型コロナウィルスなどの伝染病の集団感染
- 建物施設の老朽化
- 洪水や地盤沈下などの立地条件的リスク
- 事件・事故 など
リスクの洗い出しができたとしても、現実問題としてすべてを対処・問題解消することは困難です。
この点は、リスクに優先順序を付けて、優先度の高いリスクに絞った形で、BCP策定をすると良いでしょう。
- どのくらいの頻度で発生するのか?(月に1回、年に数回、数年に1回)
- どの程度の損失が発生するのか?
事業継続の目標設定
続いて事業継続の目標設定(目標復旧時間の設定)を行いましょう。
災害によって事業がストップし、復旧が遅れてしまうと、要介護者にとっては致命的で、介護事業の存続にも直結します。
被災後、どの程度の時間で介護業務を再開するかの目安を設定します。
目安は以下のような形で具体的な目標を設定します。
- 安全確保:地震発生から30分以内に全利用者の避難完了を目指す
- 生活支援:発生後12時間以内に全利用者へ食事と飲料水の提供を開始
- 医療支援:発生後24時間以内に緊急医療サービスが提供可能な状態に復旧 など
また、目標設定のポイントとしては以下の3点に気を付けましょう。
- 現実性の確保:目標が現場の能力や資源に合致している内容かを確認する
- 柔軟性の確保:災害規模や状況に応じて柔軟な対応ができる範囲の目標設定にする
- 全職員との共有:設定目標は全職員に周知し、訓練を通じて実行できるようにする
必要な資源と体制の準備
災害時に備えて、非常食や防災グッズの備蓄をしておきましょう。
大地震災害の場合には、インフラが使えなくなる場合もあるので、非常時の電源や水源の確保など、事業継続ができる体制を整えておきましょう。
非常食をはじめ、一部のものについては、消費期限や使用期限があるため、定期的にチェックし、足りない場合には交換・補充することが重要です。
- 3日分の非常食・水
- 医薬品や衛生用品
- 非常用の電源装置 など
また、非常時の体制構築と職員不足への対策も必要です。
夜間など、通常時よりスタッフがいない時間での災害発生もあるため、その点を見越した準備も重要です。
- 代替スタッフの確保
- 他部署・他施設からの応援体制の構築
- 提携施設との相互支援協定
- 元職員の臨時雇用体制の整備
- 非常時の業務体制の調整
- 必要なケアを明確化し、マニュアル化する
- 一時中断できるサービスをリスト化する
- 緊急時用の簡易ケアプランの準備
訓練とシミュレーション
介護施設は自力避難が困難な方を入所対象としており、不特定多数の人が出入りする「特定防火対象物」と規定されていることもあり、消防法によって年2回の避難訓練が義務化されています。
宿泊を伴う介護施設の場合には、年2回の避難訓練のうち1回は、夜間での訓練か、夜間に災害に遭った想定で訓練が求められています。
訓練では、いつ何時に発生するか分からない災害発生も想定して、職員の少ない時間帯に実施するなどの様々な状況をシミュレーションして訓練を行い、実際に被災した時に最適な行動をとれるように備えることが大切です。
防災対策やBCP策定のことについては
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BCP策定後のメンテナンスと定期的な見直し
BCP策定ができても、その策定内容は完璧ではありません。
継続的に見直しと更新を行うことで実効性を保ち、あらゆる災害に対応できる計画へと発展させることが重要です。
ここでは、BCP策定後に考慮すべき2つのポイントについて説明します。
定期的なBCP見直しと更新の必要性
定期的なBCP見直しと内容の更新を3つの観点から行う必要があります。
- リスク環境の変化
- 時間の経過とともに、介護施設を取り巻くリスク環境が変わるため、これらの変化に対応するため、BCPの定期的な見直しが必要です。
- 建物の老朽化による耐震性リスク
- 新技術や新設備の導入
- 職員の入れ替わり
- 時間の経過とともに、介護施設を取り巻くリスク環境が変わるため、これらの変化に対応するため、BCPの定期的な見直しが必要です。
- 実効性の検証
- 定期的な訓練やシミュレーションを通じて、策定したBCPの有効性を検証します。訓練結果の内容を見て、不備・問題点や改善点を洗い出して、計画内容を修正・最適化することで災害時の対応力を向上できます。
- 法規制やガイドラインの変更
- 災害対策に関する法規制や行政のガイドラインが更新される場合があります。改正・更新内容に適用できるようにするためにも、BCP策定内容を最新の基準に合わせて見直す必要があります。
地震以外の災害にも対応可能な柔軟性のある計画の構築
介護施設を襲う災害は地震災害以外にも色々あります。それらの災害に対しても柔軟に対応できるBCP策定内容である必要があります。
- 多様な災害リスクへの対応
- 地震の他に、台風、洪水、大規模停電、感染症の流行など、様々な災害リスクが発生する可能性があります。地震だけといった特定の災害に限定したBCPの計画を作るのではなく、柔軟に対応できる共通のフレームワークを構築することで、多様な災害に柔軟に対応できる計画を作りましょう。
- リソースの多目的活用
- 施設内の物資や設備、人的リソースが地震以外の災害にも活用できるように、汎用性の高い備蓄品の選定や設備設計にしましょう。
また、対応手順の中で標準化されたプロセスを設定し、災害の種類に応じてカスタマイズ可能な仕組みも取り入れましょう。
- 施設内の物資や設備、人的リソースが地震以外の災害にも活用できるように、汎用性の高い備蓄品の選定や設備設計にしましょう。
- 地域連携の強化
- 様々な種類の災害に備えるためには、地域社会や自社・他社含めた他の施設との連携が重要です。
地元自治体や他施設との災害協定を締結し、物資の共有や避難場所の利用など、災害発生時の協力体制を築くことで、計画の実効性と柔軟性を向上させられます。
- 様々な種類の災害に備えるためには、地域社会や自社・他社含めた他の施設との連携が重要です。
まとめ
防災対策とBCP策定は、災害に対する備えという点は同じですが、内容はそれぞれ異なります。
介護施設は既にBCP義務化で、すべての事業所がBCP策定済ですが、設定内容の見直しとメンテナンス・強化をしていく必要があります。
いつかは来てしまう大地震などの災害発生に対しても万全な対応ができるように努めましょう。
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